1990年代の Jacobs と Rutten の諸結果に始まり,状態遷移システム(たとえばオートマトン) の圏論的モデルとして成功を収めつつある coalgebra (余代数) の概念について,概説します.最近盛り上がっているいくつかのトピックについて手短に紹介しますが,ポイントは圏論 (「なんでも矢印で書こう!」というフォーマリズムです) の持つ抽象力です.計算機科学における,一見異なるいろいろな現象の共通する本質をとらえて,「同じもの」として記述することができます.
一例として,後半の時間を使って「軌跡意味論と模倣関係の一般理論」に関するわれわれの結果を紹介します.双模倣関係 (bisimilarity) が集合と関数の圏 Sets における coalgebra でとらえられる,というのはよく知られた結果ですが,軌跡意味論 (trace semantics) は「内部の分岐構造を気にしない」という点で双模倣関係よりも粗い同値関係です.圏を Sets から Kleisli category と呼ばれるものに取り替えることで,軌跡意味論がやはり coalgebra を使ってとらえられることを示します.われわれの一般理論について特筆すべきなのは「分岐の種類」 (たとえば非決定性 vs. 確率的分岐) がパラメータになっていて一様に扱えることです.このおかげで,非決定性システムに対する既存の結果を確率的システムに対して「移転」することができます.
ご存知の方にとっては「もう知ってるよ!」という内容だと思いますが,むしろ学生さんをターゲットに平易に話させていただこうと考えています.よろしくお願いいたします.
三角形の内部に3個の互いに外接する円があり、それぞれの円が三角形の三辺のうちの二辺と接するとき、その3個の円は Malfatti の円と呼ばれる。Malfatti の円の中心を結んで得られる三角形は、Malfatti の三角形と呼ばれる。Malfatti の三角形と元の三角形について、さまざまな観点から大きさを比較する計算を行った。計算の途中に出現する連立方程式は、手計算で解くには難しいが、数式処理システムを使えば解ける程度の大きさであった。
「確率とは何か」という問いには、頻度説や主観説など様々あるが、数学的な定式化としてはKolmogorovによる公理的アプローチが主流となっている。本講演ではランダムネスの理論を用いて、頻度や信念の度合いの数学的定式化が確率の公理を満たすことを説明する。このことから、確率とは「それ以上規則が見つけられない時の頻度」であることを主張する。
様相論理S4における論理式の導出関係は、標準形の論理式およびexactモデルを用いる方法で、その詳細が明らかにされてきている。本報告は、この方法をS4以外の正規様相論理Lに適用するための、Lの条件を示す。
2つの様相論理S4.1とS4.2は、どちらも極大元の条件により定められるクリプケモデルで特徴付けられる論理である。本報告では、標準形の論理式をexactモデルを用いて様相論理S4の論理式の導出関係を明らかにする方法が、このタイプのクリプケモデルで特徴付けられる論理に有効であることを述べ、実際にその方法を適用した結果を述べる。